摂政 / リージェンシー 時代の女性の装いについて整理しました。社交に忙しい上流階級のレディは、1日に3~4度ドレスを着替えることがあったかもしれません。予定のない日であっても、上流の家系ならディナーのために着替えるのが普通でした。
時と場所に合わせた装い(TPO)
『La Belle Assemblée』や『Ladies’ Monthly Museum』といったファッション雑誌は、幅広いドレスやマントや帽子やアクセサリーを掲載して、時と場合による使い分けを示していました。
時間帯によって肌の露出が変わります。午前中は、腕・首・胸部を覆う習慣でした。これらを露出してよいのは午後と晩です。
イブニングドレスと舞踏会ドレスの違いや、ウォーキングドレスとデイドレスの違いは軽微ですが、これらの違いをわかっている女性は、育ちの良い女性であるとみなされたようです。
時間帯別のドレス例
Morning dress
モーニングドレス
日が昇ると身にまとうのは「モーニングドレス(morning dress)」です。からだにフィットする胴着で胸部・腕・首を覆います。スカートは歩きやすい短めの丈ですが、くるぶしが見えてはいけません。レースキャップと合わせて着用されることがしばしばありました。
時代の後半になるとモーニングドレスは少しフォーマルになり、デイドレスとして屋外での着用もできるようになりました。
Afternoon dress
アフタヌーンドレス
誰かを訪問するときや、買い物に出かけるとき、来客の予定があるときなどは、モーニングドレスの代わりにアフタヌーンドレス(afternoon dress)を着用しました。
Round dress / Round gown
ラウンドドレス / ラウンドガウン
「ラウンドドレス(round dress)」または「ラウンドガウン(round gown)」は、デイドレスのうえに羽織るものです。トレイン(引きずるほど長い裾)はありませんが、アンダースカートやペチコートが露出しないようになっていました。
Evening dress
イブニングドレス
夕刻から夜に着るドレスがイブニングドレス(evening dress)です。イブニングドレスには、長そでも半袖もあり、裾がトリミングされています。
イブニングドレスはたいてい肘までの長さの手袋と合わせて着用されました。ときどき、髪飾りとおそろいのチュニックやシャーリング布をかさねてドレープにすることがありました。
Half dress
ハーフドレス
「インフォーマルなイブニングドレス」または「一般的なデイドレス」として着用できる、短い袖のチュニックがあります。ラウンドガウンの上に着用しウエストで締めます。「ハーフドレス(half dress)」と呼ばれます。
目的別のドレス例
Walking dress / Promenade dress / Afternoon dress / Carriage dress / Pelisse robe
ウォーキングドレス / キャリッジドレス / プロムナードドレス / ペリーズローブ
じつはウォーキングドレスと、プロムナードドレスと、アフタヌーンドレスと、キャリッジ(馬車)ドレスの違いは、あまり明確ではありません。流行によってその境界線が変わりました。
ウォーキングドレス
ウォーキングドレス(walking dress)は、もっともよく着用されたコスチュームのひとつです。季節によって長そでと半そでがあり、歩きやすさのために、やや短めのヘムラインになっています。
ウォーキングドレスはハイネックであることが多く、あるいはタッカー(首周りに付けるレースのひだ飾り)またはフィシュ(肩に掛け、胸元で緩やかに結ぶ三角形のスカーフ)とあわせて着用されることもよくありました。ペリーズやスペンサーやマントルなどの上着とあわせて描かれることもあります。
キャリッジドレス / プロムナードドレス
ウォーキングドレスによく似たものとして、キャリッジドレス(馬車用ドレス / carriage dress)とプロムナードドレス(遊歩道ドレス / promenade dress)があります。違いとしてはウォーキングドレスよりも高級な素材を用い、よりエレガントなふちどりになっていることです。
ハイドパーク(Hyde Park)などのおしゃれなスポットを散歩したり、屋根のないオープンな馬車に乗るときに着用すると印象的になりました。
ペリーズローブ
1817年からはペリーズローブ(pelisse robe)が、キャリッジドレスに変わるようになりました。ペリーズローブとは、ペリーズと呼ばれるコートから進化したものです。首から足元までを、リボンやボタン、隠れたホックなどで留めて着用しました。
バルドレス(舞踏会用)
美しいドレスのなかでも舞踏会用(ball dress)のものは特別で、最高の布や織物をもちいて作られていました。舞踏会用のドレスには繊細な刺繍や、豪華なふちどりがレースやフリルや造化やビーズなどで、施されました。たいてい髪飾りやヘッドドレスもあわせて着用されました。
繊細なドレス(クレープ織、サーセネット織など)の内側にはサテンのスリップを着用しました。
社交界デビューするレディには「白」がポピュラーでしたが、パステル調の淡い色を採り入れることもありました。
Court dress
宮廷ドレス
フープ(輪状)コルセットとともに着用する18世紀の重厚なスタイルは、フランス革命以降、日常の生活から消え去りました。しかし、この前世紀のスタイルはイングランドの宮廷では継続されました。
シルクやサテンやレースでふんだんに飾られ、なかでもダチョウの羽根飾りはとくに重要なエチケットでもあったようです。1820年に摂政王太子ジョージが戴冠すると、この18世紀のスタイルを辞めました。
Riding-habit
乗馬着
乗馬着は、乗馬のためにデザインされ、とくに女性は「横乗り(side-saddle)」でしたので、これに合わせてつくられました。18世紀の男性のコートを元にしたデザインで、リージェンシー時代の女性の乗馬着は身体にフィットする長そでと、長い裾をもつジャケットでした。襟は高めで、フロッグコート風のミリタリースタイルも好まれました。素材はリネンやブロード、羊毛などです。帽子と手袋とブーツと合わせて着用し、鞭も携帯しました。
Mourning clothes
喪服
喪服は身内に不幸があったときや、王室に不幸があった時に着用されました。その期間は、故人との関係によって様々です。女性はフルモウニング(full mourning)なら黒を着用することが当然とされ、ハーフモウニング(half mourning)ならグレーやライラックや、白いレリーフ付きの黒を着用しました。喪があけても、黒の手袋の着用をつづけることがありました。
高慢と偏見(1796)のドレス
ジェーン・オースティンの小説「高慢と偏見」の時代に着用されていたドレスの詳細を、次の動画で見ることができます。
以上です。
おもに参考にしたのは『Georgette Heyer’s Regency World』です。20世紀の作家 Georgette Heyer が詳細に調べて何冊もの小説に細かく描写した摂政時代の習慣・風習・流行・生活など…の正確さには定評があり、これはそうした描写を抽出して凝縮した1冊です。歴史書ではないですが、摂政時代ロマンスを楽しむにはじゅうぶん以上です。
なお、 Georgette Heyer の小説一覧(日本語訳もあり)は Amazon で見ることができます( ジョージェット・ヘイヤー )。
参考
1795–1820 in Western fashion
Category:1800s dresses
Georgette Heyer’s Regency World