貴族と地主階級(ジェントリ)の違い

貴族と地主階級(ジェントリ)の違い

近世後期イギリスの上流階級の序列について書きます。

Advertisement

貴族も地主階級(ジェントリ)も上流層

  • 上流層(Upper class)
  • 中産総(Middle class)
  • 下層(Lower class)

という社会全体の階層において、貴族階級と地主階級(ジェントリ)は上流層に該当します。上流層のなかにも階級があり、上から

  • 国王&王族(king)
  • 貴族階級(Peerage)
  • 地主階級(Gentry)

と並びます。

Princess Charlotte Augusta of Wales and Prince Leopold of Saxe-Coburg-Saalfeld, 1817

貴族と地主階級(ジェントリ)の違い

では貴族と地主階級(ジェントリ)の違いは何でしょうか?

それは、貴族には爵位があるいっぽうで、地主階級(ジェントリ)には爵位がないことです。これが両者の決定的な違いです。

地主階級(ジェントリ)は上流層(支配者層)ではあるものの、爵位がないので「庶民」ということになります。しかし被支配層とは一線を画す階級です。

政治において、貴族院(House of Lords)は爵位のある人々で構成され、庶民院(House of Commons)は地主階級で構成されました。

貴族の爵位

なお貴族の爵位は、上から順に次のように並びます。

  • 公爵(Duke)
  • 侯爵(Marquess)
  • 伯爵(Earl)
  • 子爵(Viscount)
  • 男爵(Baron)

ただし、この序列は領地の大きさや裕福さとは比例しません。

地主階級の序列

ちなみに、地主階級のなかにも序列があり、次のように並びます。

  • バロネット(準男爵 / Baronet)
  • ナイト(騎士 / Knight)
  • エスクワイヤ(郷士 / Esquire)
  • ジェントルマン(紳士 / Gentleman)

ただし、この序列は領地の大きさや裕福さとは比例しません。

地主階級(ジェントリ)になるには?

「血統」は、イングランドの地主階級(ジェントリ)を決める必須要素ではありません。イングランドの地主階級(ジェントリ)は、貴族出身と中産階級出身が混ざっています。革命前のフランスの身分制度などと比べると流動的でした。

ケース1:貴族の家に生まれた次男以下と子孫

爵位は家系の長男が継ぐので、次男以下の子孫は必然的に爵位なし、つまり地主階級(ジェントリ)となります。その子孫たちもやはり地主階級です。相続できる土地や資産が少なくなるほど、年収も少なくなります。

貴族は紋章をもっています。しかし地主階級(ジェントリ)のなかにも紋章を持つ権利を得ている家系がありました。ですから、紋章の有無で貴族とジェントリを見分けることはできません。

地主階級(ジェントリ)でも近い親戚が貴族という場合があります。そんな場合は地主階級(ジェントリ)といえど、大陸でいうところの「貴族」にほぼ等しいものとみなされていました。

ケース2:下層・中産層に生まれて出世

貴族の次男以下の子孫が地主階級(ジェントリ)に身を落とすことになるいっぽう、たとえば自由農民(ヨーマン)身分から身を起こして地主階級に昇りつめた家系もあります(Sir Edward Phelips /16世紀)。

また18世紀末から現れ始めた実業家や起業家は、大成功をおさめて地主階級(ジェントリ)に仲間入りすることがありました。

このような人々は、貧しい貴族よりも経済的に裕福なケースもありました。しかし金銭の多少は地主階級(ジェントリ)の決め手ではありません。既存の地主階級(ジェントリ)の人々に「同等」と認められて交流できなくてはなりませんでした。とくに商売とは縁を切る必要がありました。上流社会には、「商売は卑しいもの」という考えがあったからです。

さらには、ようやく地主階級(ジェントリ)に昇りつめても、その中ではやはり出自にまつわる上下差があり、この階級に属する人々の間で、ある程度はお互いに意識されているものでした。

小説『高慢と偏見』でわかる地主階級(ジェントリ)の社会

ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』に登場するミスター・ダーシーは、母方から貴族の血をひいています。いっぽうミスター・ビングリーは、家系をさかのぼると商家です。いずれとも「地主階級(ジェントリ)」に属し、そして友人同士です。

地主階級(ジェントリ)は作家のジェーン・オースティン本人が属した階級なので、小説から当時の流行や暮らしぶりを窺えるとともに、ところどころに現実的で辛辣な文言が含まれていて面白いです。

Illustration by Charles Edmund Brock (1870-1938) for Pride and Prejudice by Jane Austen (1775-1817) (London: Macmillan & Co, 1895) By Courtesy of the British Library
C. E. Brock illustration for the 1895 edition of Jane Austen’s novel Pride and Prejudice (Chapter 55)

各出版社から様々な翻訳が出ています。わたしは「中央公論新社出版(大島一彦氏の翻訳)」をお薦めしたいです。古典の雰囲気を損なわずに、読みやすい現代語訳になっていて、物語の世界観に没頭できるからです。さらに敬称による身分の見分け方や、登場人物の親戚関係などについて書かれた付録があり、社会の様子もよくわかります。Amazon で「試し読み」できます。

貴族になるには?

ケース1:父から長男への相続

貴族の家に生まれた長男が、父親の死に際して称号を継ぐのが一般的です。貴族は一人で複数の称号をもつこともありましたが、すべてを長男に継承することが普通でした。

ケース2:地主階級からの出世

地主階級(ジェントリ)の子息でも、国王から新たに爵位を授かって貴族に列せらることがあります。ナポレオン率いるフランスとの戦いで功績をあげたウェリントン公爵やネルソン子爵が有名です。

また、便宜を図って称号があたえられるケースもありました。

フランスとの戦い…フランス革命後に起きた、反王党派フランス VS 欧州君主諸国 の戦争。フランス革命戦争(1792-1802)~ナポレオン戦争(1803-1815)。

英雄:初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリー

フランス革命戦争およびナポレオン戦争中に活躍したアーサー・ウェルズリー(Arthur Wellesley)は、アイルランドの男爵家(のち伯爵家)に生まれますが6男であり継承できる爵位はありませんでした。

しかし陸軍で抜きんでた戦略を見せてその功績を称えられ、人脈にも恵まれて出世し、トントン拍子に爵位も授かって、最高位の公爵となりました。ウェリントン公爵家のはじまりです。この家系は現在まで続いています。

アーサー・ウェルズリーは軍務のかたわら政界にも出入りし、首相も務めました。

英雄:ネルソン提督

この時期の英雄としてはネルソン提督のほうが有名かもしれません。ネルソンの生まれは地主階級(ジェントリ)です。父は牧師職に就いていました。

ネルソンは海軍に所属していた叔父を頼って入軍し順調に出世しましたが、アメリカ独立戦争(1775-1783)が終わると失業状態となり、さらに上官にも恵まれず苦しい日々を送ります。

しかしフランス革命後に対仏戦争がはじまると、ナイルの海戦(1798)に勝利して男爵位を授かり、トラファルガーの海戦(1805)を勝利に導くと同時に戦死し、死後ではあるものの子爵位が授けられました。ネルソンには正妻との間に子がなかったため、爵位は兄が継承しました。

ネルソンは上官や政界人に恵まれず、授かった爵位は、功績に対して低いものだったとする見方もあります。また、イギリスの爵位ではありませんが、シチリア王からブロンテ公爵位を授かっています。

  関連リンク   「ナイルの海戦」ナポレオンの計画をくじく要(かなめ)-フランス革命戦争

便宜:初代シドマス子爵ヘンリー・アディントン

便宜的な理由で爵位を授かるケースもあります。ヘンリー・アディントンはトーリー党の政治家で、小ピット内閣に枢密院議長として加わる際に、不便がないようにとの計らいで子爵位を授けられ、これを受け入れました。

ヘンリー・アディントンはのちに首相(1801-1804)も務め、ナポレオン率いるフランスと「アミアンの和約( Treaty of Amiens )」を結んだこと、および、民主改革派を弾圧した圧政で有名な人物です。

ヘンリー・アディントンは高名な医師の家庭に生まれたので、出生時の身分としてはおそらく中産階級(Middle class)の上位でしょうか。父が政治家大ピット(Pitt the Elder)に仕えた医師だったことから、ヘンリー・アディントンは小ピット(Pitt the Younger)の友人として育ちました。

大ピットは、爵位を授かることを長年拒絶したので「グレートコモナー(the Great Commoner)」としても知られています。

  関連リンク   社会階級‐19世紀初頭のイギリス


Advertisement

参考
Landed gentry
Gentry | Georgian society in Jane Austen’s novels

リージェンシー・ファッション(摂政時代の装い)
リージェンシー・ファッション(摂政時代の装い)
目次 1. 18世紀末~19世紀初頭2. 女性の衣装3. 男性の衣装4. ファッションマガジンの刊行5. 近隣諸国 Advertisement 18世紀末~19.....
貴族(ピアレッジ / Peerage)の序列と成り立ち
貴族(ピアレッジ / Peerage)の序列と成り立ち
貴族階級とは、国王から「公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵」の称号を授けられた人々を指します。ウィリアム征服王がイングランドを征服した時(1066)、イングランドを荘.....
社会階級‐19世紀初頭のイギリス
社会階級‐19世紀初頭のイギリス
摂政時代 / リージェンシー(18世紀末~19世紀初頭)の社会の序列構造について書きます。国王を頂点として、支配者層には王族と貴族階級そして地主階級が続きます。.....

貴族については

  関連リンク   貴族(ピアレッジ / Peerage)の序列と成り立ち

にも書いています。

地主階級について詳しくは

  関連リンク   地主階級(ジェントリ / Gentry)の身分と職業

にもまとめています。