摂政時代 / リージェンシー(18世紀末~19世紀初頭)の社会の序列構造について書きます。
上流社会・上流階級
Monarch | 君主(国王) |
Royalty | 王族 |
Aristocracy | 貴族 |
Gentry | ジェントリ(地主階級) |
「摂政時代 / リージェンシー」の社会は、階級社会でした。国王を頂点として、支配者層には王族と貴族階級そして地主階級が続きます。ジェーン・オースティンの小説で中心となっている社会は、上流階級のなかの下層にあたる地主階級です。
貴族と地主階級の違いは、爵位の有無です。爵位があれば貴族で、なければ地主階級となります。爵位を継ぐのは長男ですから、次男以下の子孫が地主階級となります。それでも支配者層ですから、大陸でいうところの貴族にほぼ等しい地位です。
しかし地主階級の定義は、時代をくだるにつれて、あいまいになります。商取引などで富を築いた富裕者層がこの階級に加わることがあったからです。
上流社会には「商売は卑しい」という概念がありましたので、この階級に加わるには商売を断つ必要がありました。商売と縁を切っても地代収入によって遜色ない生活がおくれることが最低条件で、くわえて礼儀作法や教養を身につけて既存の地主階級メンバから「交流してもよい」とみなされなくてはなりませんでした。
ジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』に登場するダーシーは、その母が貴族家系の出身です。ビングリーは、家系をさかのぼると商家の出身です。ふたりとも地主階級に属し「ミスター」の敬称で呼ばれています。親しい友人同士ですが、厳密には差があるのです。お高くとまっているビングリーの妹について”商家の出身であることも忘れ…”という記述がみられます。
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中流社会・中産階級・資産階級
Middle classes | ミドルクラス(中産階級) |
実は「ミドルクラス」という階層は1832年以降に使われ始めました。しかしその実態は19世紀の初頭から存在していました。
筆頭は、いわゆる 資本家 / 投資家、銀行家、実績のある医師たち、エンジニア(研究開発)や法律家(弁護士)、 官僚や公務員、大工場のオーナー、非常に裕福な商人、インド帰りの大富豪、恵まれた環境にあって財産のある一部の聖職者などです。
ふつうの医師、中規模の商人やインド帰りの富裕者、大学教授などは中流のなかの中流と考えらます。中流の下層として、教師、宿のオーナー、芸術家、卓越した工匠、小規模の商人、店主、貧相な地方牧師などが挙げられます。
この階層は上流社会のような厳格な決まりはなく、流動的でした。成功する者は富や名声を築き、成功しない者はほどほどに暮らしました。
ちなみに、東インド帰りの成金を「nabobs」と言うそうです。田舎に広大な土地と屋敷を購入したり、金を払って政界に参入したり、娘を上流層に嫁がせることに躍起でした。しかしながら出身の身分は重要視されましたので、多くはミドルクラスの上層どまりになりました。それ以上の出世は孫やひ孫の代に希望を託したようです。
下層社会
Artisans and Tradespeople | 職人と商人 |
(Servants) | (召使、使用人) |
Labouring | 労働者階級 |
Poor | 貧民 |
Paupers | さらなる貧困層 |
稀に大出世する熟練職人や商人がいましたが、ほとんどは貧しい労働者よりも少し稼ぎが多いという程度でした。召使 / 使用人の位置づけは、少しむずかしいです。というのは、まず雇い主によってその格や生活環境がおおきく異なりますし、使用人としての仕事内容によってステータスにも幅があるからです。使用人については別のページを設けて掘り下げたいと思います。
全人口のもっとも多くを占めていたのは、貧しい労働者階級です。行商人、煙突掃除夫と子供たち、陸海軍の雑兵、季節労働者、そして職にありつけない病人や高齢者、ホームレスの人々です。
ロンドンには貧困地域がありました。貧民街は薄汚く、泥棒、売春、賭博、絶え間ない飲酒が横行していました。都市部の人口増加にともない、治安は悪化しました。上流社会と下層社会は別世界でした。
親から捨てられたり、見放された子供もおおくいました。あるいは盗みを働くよう、堕落した年長者からたきつけられました。スリや万引きを行い盗みの罪で捕らえられた幼い子供は、流刑となりオーストラリアのボタニー湾に送られました。10代の多くは死刑になりました。
参考
Regency era
Georgette Heyer’s Regency World
Children, Poverty, & Crime in the Regency Era