馬車の種類:19世紀初頭のイギリス

馬車の種類:19世紀初頭のイギリス

摂政(リージェンシー)時代のイギリスでは、おもな交通手段は馬車でした。このページでは18世紀末~19世紀初頭に使われていた馬車を列挙します。

なお蒸気機関車の発明は1804年です。ストックトン&ダーリントン鉄道( Stockton and Darlington Railway )の開業は1825年で、旅客輸送を行う初の路線は1830年開通のリバプール&マンチェスター鉄道( Liverpool and Manchester Railway )です。

概要

大衆用の駅馬車から、エレガントなタウンコーチやバルーシュ、そしてスポーティなカリクル、軽量でほろなしのフェートンなど、馬車には様々の種類があります。

様式やデザインも様々です。内部にベルベットやシルク、レザーをほどこして贅沢で上品に仕上げられている馬車もあれば、輸送だけを目的にしたシンプルな馬車もあります。

Town coach, Town Chariot
タウンコーチ、タウンチャリオット

King Edward VII’s Town Coach

上流階級のために造られる馬車は細めで、ボディの中は4人掛けです。ボディの外側には、正面の高い位置に御者用のシートがあり、後方には従僕( Footman )用のランブルシートが備わっています。

タウンコーチや、タウンチャリオットなどもこのタイプです。ドアを紋章や家紋で飾ったり、ボディや御者席にフットマンの衣装と合わせた色どりのハンマークロス( hammer cloth )をあしらうなどの装飾が施されました。

Town Coach
Town Chariot

Post-chaise
ポストチェイス(駅伝馬車)

Post chaise passing a damaged gig, the gig has slipped into the verge and been thrown over

ポストチェイスはもっともよく利用される長距離の交通手段でした。馬車のかたちはタウンチャリオットに似ていますが、御者席はありません。代わりに1人~複数人の騎乗御者( Postilion )によって操縦されます。騎乗御者とは馬車をひく馬に乗っている人です。

ポストチェイスは黄色く塗装されたので「Yellow Bounders」とも呼ばれます。

Post chaise

Barouche
バルーシュ

Barouche in Livrustkammaren, Stockholm, Sweden

バルーシュは街馬車のなかで、もっともエレガントな馬車のひとつです。2人掛けの屋根のないオープンなボディが、2頭~6頭(偶数)の馬によってひかれます。市内の移動に適した馬車で、暖かい季節に使われました。

御者席はボディの前方の高い位置に配され、フットマンもここに座ります。ボディの後方にはジャバラ状の覆いが備えられています。これを広げるとボディの半分を覆うことができ、天候が悪い時にはあるていどの雨風をしのぐことができました。

Carriages of Britain
Barouche

Phaeton
フェートン

The father of four-in-hand MAY 1804

摂政(リージェンシー)時代のもっともポピュラーな街馬車のひとつがフェートンです。フェートンという名はギリシャ神話に由来し「輝くもの」を意味するそうです。

フェートンは2人掛けの4輪馬車です。さまざまなデザインのものが街を行き交いました。座席の位置が高くなったデザインがスタイリッシュでした。たいていは2頭の馬にひかせました。御者はつれず、男女を問わず所有者自らが操縦するのが一般的でした。馬の世話係( groom )を伴うことはしばしばありました。

王太子ジョージ( George IV )は、フェートンの優れた操縦者でした。4頭ならず、6頭の馬にひかせた高座席のフェートンを操縦したそうです。

Carriages of Britain
Phaeton (carriage)

Gig
ギグ

Fashion plate, the Netherlands

2輪馬車を総称してギグと呼ぶようです。おもに、ひとり用の座席と御者席を施した馬車で1頭の馬にひかせるものを指すことが多いようです。しかし、ほかに次のような馬車も含むようで、それぞれ、すこしずつ特徴が異なります。

Tilbury gig
ティルベリー ギグ

軽量の2輪馬車で、こちらは2人掛けです。乗車席に屋根や覆いはなくオープンなデザインのため、天候の良いとき、そして短距離の移動に使われました。おもにジェントリ階級の人々のあいだでポピュラーでした。

Curricle
カリクル

摂政(リージェンシー)時代のもっとも典型的な2人掛けの2輪馬車がカリクルです。こちらは2頭の馬にひかせます。カリクルバーという棒をつかって、2頭の高さと足並みをそろえます。

ボディには悪天候のときに使えるジャバラ状の覆いが備えられています。後方には馬の世話係のためのスペースがありますが、ここに荷物が積まれているシーンも見かけます。長距離移動にも使える馬車です。

この馬車はスピードを好むスポーツ志向の男性に好まれたそうです。カリクルという名称はローマ時代のレース用チャリオット「curriculum」に由来するそうです。

A Gentleman, his bays harnessed to a curricle. 1806, oil by John Cordrey c. 1765-1825

Gig (carriage)
Curricle
Carriages of Britain

Stagecoach, Mailcoach
駅馬車(乗合馬車)

“Behind time”, anonymous old English engraving; 19th century; private collection

長距離を走る乗合馬車です。stage stations 等で馬を交換して進み続けます。時刻表にしたがって運行されました。

箱状のボディを4頭の馬がひきます。人と荷物の両方を運べるよう設計されています。メイルコーチはステージコーチの一種です。

頑丈な箱状のボディの中は4~6人掛けのシートになっています。ボディの外は、後方に人が乗車できるスペースが設けられ、御者席の下には荷物をおくスペースが設けられています。ボディの屋根上にも、人と荷物が載ることができました。ボディの外には8人~12人が乗車できました。満載にしてその重さは3トンを超えたそうです。

Stagecoach
Mail coach

参考
Georgette Heyer’s Regency World